無能の人・日の戯れ / つげ義春

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

無能の人」、有名だけどわびしさが強烈すぎて読んでるとしんどくなってくる。自分はとりあえずは定職に就いて日々をやり過ごしているけど主人公の無能の人に共感する部分も確かにあって、読んでいるとパラレルワールドで石商人をやっている自分が暗がりから覗いているような気分になって心が冷える。

それぞれ同じ夫婦を描いた「退屈な部屋」「日の戯れ」は最高に好きだ。奥さんが最高に魅力的だ。明るく、幸せに満ちた作品だ。何も起こらないけど幸せというものが確実にそこにある、凄い漫画だ。

しかし「無能の人」と「日の戯れ」の主人公の漫画家は近い種類の人間に見えるのに作品の印象はどうしてこんなに違うのだろう。明らかな違いは奥さんが真逆の人間であることか。あと夫婦の年齢も違う。これは結構大きいのかもしれない。無為に生きているのは同じだがやはり「日の戯れ」の二人は若いというそれだけで希望を感じさせる。

つげ義春の漫画は読んでもあまり漫画という感じがしない。短編小説みたいだ。それがいいし、ファンは多分そういうところが好きなんだと思う。「魚石」とか漫画にする必要あるんだろうかって内容だ。

この文庫版は最後に吉本隆明の解説が収録されていて、それも良い。「貧困旅行記」から読み取れるつげ義春本人象を絡めて、無能の人はどういう資質を持った人間なのか、なぜつげ漫画は面白いのか、というのが明確に書かれている。というかこの解説があるならこのブログ記事は世の中に存在する意味は1ミクロンもない。