「かぐや姫の物語」は本当に凄かった

先日、高畑勲監督の最新作「かぐや姫の物語」を見てきました。本当に、凄くいい映画でした。以下はネタバレとか気にせず書いてます。

竹から生まれたかぐや姫は山に住む老夫婦に拾われ、本物の親子と変わらない愛を持って育てられます。姫は自然を愛し友人に恵まれ祝福された子供時代を送ります。一方で翁は姫と同様に竹から金銀財宝を授かり「この子をより高貴な姫君として育てよ、という天からの思し召しだ」と考え、山を降り都に屋敷を構え、姫が高貴な身分にふさわしい女性となるべく厳しい教育を与えます。「そんなの人間じゃない」と激しく拒絶する姫ですが、育ての親への愛からか肝心な場面ではそれらを難なくこなしていきます。そして名づけの儀式を盛大に行うなど社交界へと乗り出していき・・・

大筋は竹取物語そのままで、この不可解な物語でかぐや姫は何を考えていたのか?が本題です。

ありがちな話

この物語は徹底して人のエゴ、自意識とそれによるすれ違いが描かれています。しかしそこに悪意は存在せず、時代や社会が生み出した価値観によるものです。
父親である翁は「安定した家に嫁いで不自由ない暮らしをする」ことがかぐや姫の幸せであると信じて疑いません。親なんですから当然です。かぐや姫を高貴な身分としてふさわしい女性にするべく雇われた教育係の相模という人物も、かぐや姫にとってはストレスですが「良家に嫁ぐため」に一生懸命尽くしてくれます。
求婚してきた5人の貴公子、帝(そして物語的に正当な相手役と見られる捨丸も)は、うーん、自分も男なので客観的に書けないかもしれませんが・・・「男性のエゴ」ですかね。あと求婚の仕方とか認識とかは当時の常識や価値観に則ってるだけで、それを除けばありがちというか、こういうことはよくあります。別にその「男のエゴ」肯定しませんが。一応、一番気持ち悪い「勘違い君」として描かれていた帝については、何を言っても周りが「仰せのままに」で通っていた人のことなので仕方ない一面もあるだろうな、思います。(しかし帝の「顎」、「顔は悪くないが勘違い君」というのを伝える絶妙なキャラデザだったと思う笑)

繰り返しになりますけど、誰も特別悪意は無いんですよねえ・・・滑稽に描かれたりはしますが、エゴや価値観、常識に振り回されてかぐや姫の心を乱してしまうんですね。

そうやってエゴと世俗にまみれた人たちの中で、かぐや姫も一緒に転げ落ちていきます。5貴公子に対して無理難題を押し付け、最初は笑っていたかぐや姫は段々と自分がどう見られているかを悟り、心を病んでいきます。そしてついに危険を冒した末の死亡者が出てしまい、かぐや姫は自分を責めます。思い上がっていた自分は何者なんだ。自分の希望を主張することをせず、そのくせ人をバカにしてからかって、さらには不幸を生み出しているじゃないか。慰みに作った庭など偽物だ、自分の生も偽物だ。

もうここがねえ・・・やばかったです泣きそうでした。なんというか、ありがちなんですよ。珍しい話ではなくて・・・かぐや姫も山に帰りたかったんだけど、翁の期待に応えるためだとか貧しい人たちとの大きな断絶とかが描かれてて、帰りたい気持ちが徐々に萎えていくんですよね。環境に流されていたとはいえ自分の選択の結果、どんどんおかしくなっていく。自分も母親である嫗みたいに「もうおやめ!」って言いたくなりました。

高畑勲監督はよく「思い入れではなく思いやりを大事にしたい」と言います。参考 この一連の場面で僕は完全にかぐや姫を思いやっていましたね。でもそれと同時に共感してるので、思い入れ、感情移入もしていたんだと思いますが。この「思いやりと思い入れ」について、音楽でもそれをとても気をつけていたそうですが、自分は鑑賞中ずっと高畑演出の手のひらの上だったように思います。

かなり救いようの無い話なのですが、最終的には非常にポジティブなメッセージがはっきりと、セリフとして明示されます。非常に直接的で、テーマと物語が完全に結びついたまさにクライマックスのシーン。すげえ映画だ。ネットの評判で「退屈」「"日本むかしばなし"みたいだった」という意見を散見しましたが、僕にはとてもそうは思えませんでした。2013年にリファインされた竹取物語はとてもエモーショナルな、エンターテイメント超大作でした。

映像について

本作の映像について「生きた線を活かす、絵画のようなアニメーション」といったうたい文句でしたが、これは感情がむき出しになる劇的なシーンでは本当に素晴らしく、効果的だと思いました。かぐや姫の不安や悲しみといった表情は真に心に迫るものでした。一方で手間が掛かるために仕方ないのかもしれませんが、重要でないシーンでは徹底的に省エネだったように思います。顔がマルチョンだったり横顔の輪郭に凹凸が無かったり。アニメーションすると線がガクつくのも少し気になりました。本手法は劇的なシーンには非常に効果的ですが、全てのシーンで統一するには負担が大きすぎるためにクオリティに差が出ていたように感じました。ただ全く否定するつもりはなく、この手法でないとここまで気持ちが動かなかったと思います。丁寧に書かれたかぐや姫の動き、表情はこれまでになく心を揺さぶるものでした。


とにかく素晴らしかった。この作品を世に出してくれた全てのスタッフに感謝したいです。