映画「風立ちぬ」感想(1回目)

昨日の朝イチで見てきました。まだ消化できてません。大仰な音楽とアクションで盛り上げるようなシーンは無いため淡々と話が進んで行きますが、印象的なシーンは多かったです。話は難しくないですが、どう解釈をしたらいいかわからないシーンがいくつかありました。しかし最後にはそれらを受けて鮮烈な、さわやかで感動的なラストシーンが用意されており余韻はもの凄く良かったです。公開中にまた見に行きたいと思います。

 

映像について

背景の美術が本当に素晴らしい。過去の宮崎作品で最高かもしれません。
高原で大きな雲が風に流れて行くシーンをはじめ、自然の描写に息を飲みました。突風、そよ風、いろいろな風が吹き、それを肌で感じられました。

堀辰雄の「風立ちぬ」は風景描写が美しいのですが、それが見事に表現されていたように思います。

また雪が積もった山の中の病院、羽根のような雪、どこか異国のように幻想的な結婚式での花嫁姿などイマジネーションあふれる見せ場が多く、その全てで心奪われました。

夢の中のシーンではカプローニ伯爵と飛行艇の翼の上で会話をしたり、高速で背景が回転したり、紙飛行機のように自分の飛行機を飛ばしたり、アニメーションならではの表現に心躍りました。CMで使われている二郎少年が夢の中で飛行し、朝日が目下の影を散らしてゆくシーンも美しい。

その一方で、画面のメインではないキャラクターの顔(モブじゃなく、画面内の主要キャラが喋っていない場面など)や、画面奥に飛んで行って小さくなって行く飛行機の様子に違和感を感じる場面が少しありました。「作画崩壊だ!」などと言うつもりはありませんが、ジブリでそのように感じることはこれまであまり無かったので「おや?」と思いました。

 

ストーリーについて

時間とともに場面が飛躍し、その間にカプローニと対峙する夢のシーンが登場するのですが、この構成は本当によくできていると思います。「千と千尋の神隠し」以降、宮崎駿の映画はストーリーを紡ぐことを放棄しているかのようでしたが、今回は夢とカプローニという2つの発明がそれらをつなぎ止めていたように思います。ただ今はとにかく印象だけが強く残っている状態で、全体の構成はまだ掴めてない部分があるのでまた見に行きたいと思います。

 

庵野秀明監督の声について

自分はジブリが声優を使わないこと自体に対しては、役に合っていれば何も問題ないと考えています。これまでで演技が微妙だなあ…と感じたのは「ハウルの動く城」のハウルとソフィくらいで、ネットで「もののけ姫」のサンが叩かれてるのを見て驚いたくらいです。それでも庵野監督の声は気になりました。

よく見られる意見で「最初は違和感があるが徐々に気にならなくなる」というのがありました。これは同意します。でも僕の場合は本当にラストシーン近くになるくらいまで「これやべえな…」と感じてました。演技どうこうよりも発声が周りと違いすぎて浮いている印象でした。奥行きのある西洋画にのっぺりした浮世絵が描かれているような浮きっぷり。カストルプ役の人も素人(スタジオジブリの元役員の方)らしいですが、こちらはあまり喋らず、不気味な役回りの部分もあったのでさほど気になりませんでした。

 

肉声SEについて

この映画では飛行機のエンジン音など一部のSEには「ブオーーーン…」「シャコシャコシャコ…」といった人間の声が加工されたものが使われてます。これについて違和感は結構あって、その違和感を良い違和感、ひっかかりとして捉えるか、不自然で感情移入の妨げと捉えるかは意見が分かれると思います。ただ関東大震災のシーンで余震を思わせる「オオオォォォ…(肉声)」という地鳴りに怯えるシーンではもの凄く効果的に思いました。見えない化け物のような存在に恐怖する感覚があり、自分が311に地鳴りに対して感じた恐怖と重なりました。(自分は311のとき都内にいました。東北で直撃した方でトラウマ等ある方は注意した方がいいかもしれません)

ただこれは逆に言うと「人が出してる声」だということが認識できるということなので、エンジン音などで肉声が気になる人は結構厳しいかもしれません。

個人的には「ひっかかり」として効果的に使われてるシーン(震災、夢の中の音)、不自然に感じたシーン(電車が風を切る音)、両方ありました。賛か否かで言うと、面白かったので賛です。今後もっと発展しそうな演出だと思いました。

 

 音楽について

久石譲が好きなのもありサントラを買いました。全体的には映画に合わせて抑えめなトーンです。映画内でも音楽はさほど目立ってはありませんでした。曲自体の感想は保留で。サントラ聞き込んだら描くかもしれません。

 

見る際の注意点

自分は座席予約したのが遅く後方の座席を予約して見たのですが、座席の位置が高く画面を少し見下ろす形になりました。この映画でこれは良くない。できれば見づらくない程度に前の座席で、画面を少し見上げるくらいの高さで見るのが良いと思います。画面の構図的に空を見上げたり印象的なアオリのシーンが多いからです。これは何気に大事なことだと思います。僕も次見るときは前のほうで見ようと思っています。

 

その他印象的なシーンなど

関東大震災のシーンは短く、思っていたよりあっさりしていました。しかし大きな揺れがあり、その後時間が止まったように静かになり、遠くで火事が起こり人がパニックになるという流れはリアルに感じました。

高原病院(サナトリウム)で雪の中、ヒロインが屋外のベッドに他の患者と一緒に並べられるシーンは予告で見たときから物悲しく、衝撃的でした。あれは当時の結核の治療法だそうです。(高原の綺麗な空気のなかで肺を洗浄する、という名目の隔離施設)

本庄がかっこよすぎる。

黒川さん素敵すぎる。

 

 

個人的な問題になりますが今回僕はこの映画を大いに楽しもうと、堀辰雄「風立ちぬ」、堀越二郎零戦 その誕生と栄光の記録」を読んで予習していましたが、映画鑑賞の修行が足りず、改変されているところが気になってしまったりして素直に楽しめない部分がありました。当然史実は変わってないのですが、堀辰雄の小説から採用されたエピソードには少し改変があって、小説では主人公は作家でつきっきりで恋人と最後の時間を丁寧に生きる、みたいな話ですが映画では二郎は仕事であまり家にはおらず、それを妹に非難されたりする。「それだと意味合い変わってくるんじゃ…?」とか考えてしまって、素直に見れなかった部分が確かにありました。ただ繰り返しになりますがこれは僕の経験値不足なことが原因です。

 

 

この映画は超良質な部分と宮崎駿監督のプライベートフィルム的な部分があって手放しでは褒められないかもしれません。宮崎監督のファンなら、庵野監督を起用したことや肉声SEを採用したこと、モノラル音声であるということなど、宮崎監督のこだわり、挑戦がこれ以上無い価値を待つと思います。

またヒロインや周囲の理解など理想的すぎる部分があり、それらをどう受け止めるか、都合がいいと見るか内面の発露として取るかというところで評価は大きく別れると思います。

 

 

パンフレット

http://www.toho-a-park.com/gekigen/ckazetachinu.html

このページには何故か載っていませんが,パンフレット(600円)とサウンドトラック(3000円)が売られていました。

パンフレットの内容は

  1. 宮崎駿の企画書、覚え書き(公式HPと同じもの)
  2. 立花隆のよくわからないコラム
  3. 登場人物、声優紹介
  4. 完成報告会見の書き起こし
  5. 日本(とドイツ)の舞台マップ
  6. 堀越二郎堀辰雄、映画での二郎、世界の歴史を併記した年表
  7. 鈴木敏夫プロデューサーのコラム

です。4, 5がそれなりに面白く、他は特に真新しいものではないです。映画のシーンがいくつかと宮崎駿の絵コンテが1つ、大きな写真で見れます。

 

 

高畑勲監督新作の予告

本編の前に高畑勲監督の「かぐや姫の物語」の予告編が流れました。鬼のような形相で都、竹林を駆け抜ける姫。なんていうか怖い。これはもうこれまで見たこと無い映像だったので言葉で言い表せません。これも絶対見る。